AWA 室橋様×グッドパッチ代表 土屋 特別対談

ProttインタビューVol.4 AWA様

Tim Prott-08 / 04 / 2015-Interview

あの「AWA」の開発にProttを活用!

AWA株式会社 Art Director/Designer 室橋 秀俊 さん
株式会社グッドパッチ CEO 土屋 尚史
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土屋 今日の取材、楽しみにしていました! Prottを使った感想やデザインについて、いろいろとお話伺えたらと思います。

室橋 よろしくお願いします。

土屋 なんと、いま世間の話題をかっさらっている音楽配信アプリ、「AWA」の開発でProttをご使用いただいたんですよね?

室橋 ええ。AWAを開発し始めて、「どのツールを使ってデザインを共有しよう?」と考えていたときにProttに巡り会いました。そもそも、デザインの共有は会社としても課題で、個人のDropboxで共有する人もいればエンジニアが持っているサーバーにアップする人もいたりと、まちまちだったんですね。

土屋 うわあ、それは面倒ですね。

室橋 そこで昨年の秋ごろ、プロセスを画一化しようということで、デザイナーは全社的にInVisionへと移行することになって。

土屋 あ、そうなんですか。ということは、AWAチームだけInVisionを使わず、Prottを選んでいただいた?

室橋 そうですね。AWAは株式会社の形を取っているのですが、サイバーエージェントとエイベックス、50%ずつの出資でできた子会社です。そういう事情もあってクローズドにやるために独自のツールを使うことになった、というわけです。

土屋 なるほど。ツールの選定はどのように行なったのですか?

室橋 海外のプロトタイピングツールもいろいろと使ってはみたのですが、どうもしっくりこなくて。いろいろと探すなかで、Prottに行き着きました。

土屋 その決め手について、詳しく教えてください(笑)。

室橋 まず、「日本製」であることが大きかったんですよ。「英語を使わないといけない」って、導入の段階でも、毎日の作業のなかでも、ちょっと面倒だなという気持ちが強くて。

土屋 ああ、そうですよね。プロトタイピングツールのなかで日本語対応しているのは、現状ではProttだけなんです。(2015年7月現在)

室橋 Prottは日本語ですべてが完結するし、操作性も高かったし、安心感が強かったというのがひとつのポイントですね。あと、いちばんの決め手は、PCでもアプリでも使えるという点ですね。

土屋 というと?

室橋 アプリを開発していて悩ましかったのが、パソコンの画面で見るのと実際にデバイスで使うのでは、どうも見え方に差異が出てしまうところでした。実際にユーザーが使うのはデバイスですから、ブラウザで編集してアプリでさっと確認できるのは大きな魅力だったんです。もちろん操作性も高かったこともあり、「よし、これだ!」と決めて。

土屋 はじめは、室橋さん個人のアドレスでアカウント登録してくださったんですよね。

室橋 そうです、そうです。

土屋 室橋さんの使い方ははじめから尋常じゃなくて、初期のころから「いつかこの人に会ってみたい!」と思っていました(笑)。

室橋 そうなんですね(笑)。

土屋 もう、膨大な量のデータを毎日アップされていませんでしたか。

室橋 そうですね。200枚、300枚とデータを入れて、ガンガン使い倒していました。「ちょっと動きが変だな」と思ったらすぐに編集して共有して。あと、iPhoneをテレビに接続してチームでチェックしたりもしましたね。

土屋 いま、AWAはどういうチーム体制なんですか?

室橋 いまはそれなりに増えましたけど、僕がジョインしたときは7名ですね。もちろん、デザイナーは僕だけで。

土屋 まさにスタートアップですねえ。

室橋 そうですね。ちなみに、チームの結成が8月で、僕がジョインしたのが10月なんです。その2カ月間は、デザイナーなしでプロジェクトが進んでいました。

土屋 その間でおおよそのプランが固まっていたわけですね。それにしても、200枚も300枚もアップしたらさすがに動きが重たくなったでしょう。

室橋 なりました(笑)。まあ、古いデータを消さずに残している僕の横着のせいなんですけどね。

土屋 そこはプロジェクトをわけていただくと使いやすいと思いますよ。

振り切ったシンプルさをデザインに

土屋 室橋さんは、AWAのプロジェクトにはご自身で手を挙げたんですか?

室橋 そうですね。ちょうど携わっていたプロジェクトが解散することになったので、同じタイミングで音楽プロジェクトの存在を知って、「このプロジェクトやりたいです」と。

土屋 へえ。もともと音楽に思い入れがあったとか?

室橋 もちろん音楽は好きだし、よく聴いているほうだと思います。でも、「このジャンルの音楽のことなら自分に聞いてくれ」とは言えない程度ですかね。ただ、だからこそユーザー目線というか偏った感覚にならずにフラットにデザインが考えられる、とも思いました。また、せっかくこのタイミングで音楽アプリをやるなら、いままでの日本にないクリエイティブにしたい、新しいサイバーエージェントらしさを出したい、と考えていました。

土屋 4月にはロゴも変わって、「クリエイティブで勝負する」と藤田さん(株式会社サイバーエージェントCEO)がおっしゃっていましたね。室橋さんがジョインしたのは、企画がすでに進んでいて、UIの検討に入るタイミングだったわけですよね。最初、何パターンくらいのデザインを考えました?

室橋 チームに出したのは3パターンかな。考えたのは10パターン以上あったと思いますけど。

土屋 そこで、初めてAWAに具体的なイメージがついた、と。

室橋 いえ、僕がチームに入るまでの2カ月間、エンジニアが「それぞれ自分が考えるAWA」をイメージして、モックを作っていたんです。みんな世界観も見せ方も機能も違ったけれど、「能動的に探させない、好きな音楽がリコメンドされる」というコンセプトだけは明確に決まっていて。それで、コンセプトに沿って僕が3案を出した、というわけです。

土屋 それにしても、プレイリストにがっつりフォーカスしている音楽アプリっておもしろいですよねえ。同時期にリリースされた「LINE MUSIC」と比較しても、だいぶ振り切っているなあ、と。シンプルに振り切るのは、チームの方針だったんですか?

室橋 そうですね。はじめはリコメンドされるのが「プレイリスト」と「アルバム」の予定だったんですけど、途中で「アルゴリズムで集めたプレイリストやアルバムだと機械的で面白くないんじゃない?」という議論になって。

土屋 へえ、なるほど。

室橋 「アルバムってリコメンドされて本当に聴くのかな?」といった概念的な部分やコンセプト、デザインの細部に至るまで、チームで毎日2時間以上は議論していましたね。

土屋 へえー、毎日2時間も!

室橋 はい。「夕会」と称して欠かさず議論の場は設けていました。そうしてUIを検討しまくったなかで、最終的に「人がつくったプレイリストを軸にしよう」という話にまとまりました。「TRENDING」もプレイリスト、「DISCOVERY」もプレイリスト。だから、競合サービスと違いをつけるためにこういう形になったわけではないんです。

土屋 なるほどなあ。でも、正直なところ、音楽アプリがこんなに出てくるとは思っていなかったんじゃないですか?

室橋 まあ、Spotifyが来そうなのはなんとなくわかっていたし、LINEは昨年末に「音楽サービスをやる」と言っていたので、予想はついていたと言えますかね。なかでも、とくにLINEはプラットフォームを持っているから友達とシェアする類のサービスだろうと予測はしていました。AWAは、シェア機能がついているとはいえ、あくまでベースは「あなたの好きそうな曲集めたよ」というスタンス。あまり競合の意識はありませんでしたね。

とことんこだわる「Hard Edged」

土屋 Prottを使うのは実装の前のフェーズまでですよね。

室橋 そうですね。ただ、AWAの場合は、デザイン制作の段階からProttを見ながら同時並行でエンジニアがモックを作ってくれて。それを実際に動かして調整して……を繰り返していきました。

土屋 ああ、それは珍しいパターンですよね。デザインがフィックスしてから実装するパターンのほうが多いでしょう。

室橋 そうですね。でも、インタラクションにこだわるためには、このステップは欠かせないものだったと思います。やっぱり、数ミリ秒のアニメーションのズレでユーザー体験は大きく変わってきますから。

土屋 なるほどなあ。年明け以降、つまり開発後期での作り込み期では、どういった作業がメインでしたか?

室橋 できあがってきたデザインをひとつずつ精査していきました。リリース段階でどの機能をつけるか見直したり、足りないものを補ったり、シンプルさを損なわないように削ったり。その作業をやり直すなかで、細かいアイコンのズレを修正したり、アイコンごと作り直したり、ですね。

土屋 うーん、地道なところですよねえ。

室橋 僕のワガママで、アイコンやマージンのズレはリリースのギリギリまで直してもらったので、エンジニアのみんなには悪いことをしたなあ、と……。

土屋 でも、そのこだわりって大事ですよね。「ま、いっか」が全体を壊してしまうというか。

室橋 そうなんですよね。1個のズレを許すと、そこから決壊してどんどんズレてしまいます。チームとしても「Hard Edged」つまり、「妥協しない」という言葉を掲げていて。そんなこだわりのあるチームだから文句こそ出ませんでしたが、リリース直前の5月は相当忙しかったと思います。

土屋 リリースの時期は決まっていたんですか?

室橋 それがですね……じつは、本当は12月の予定だったんです。

土屋 おや、半年延びたわけですね?(笑)

室橋 先ほど話したとおり、「人が作ったプレイリストが揃っている状態でリリースしたいね」という思いもあったり、機能面でももっともっと精査していきたい部分があったり。スピードも大事なんですがクオリティを最大限高めたところで、5月27日リリースとなりました。

土屋 リリース時期の判断は、藤田さんが?

室橋 そうですね。社長は、AWA株式会社の社長でもあるので。

土屋 松浦さん(エイベックス・グループ・ホールディングスCEO)が会長なんですっけ。

室橋 はい。2人のミーティングも密にやっているようですし、そこで判断されたんじゃないでしょうか。

土屋 藤田さんに制作途中のプロダクトを見せることはあったんですか?

室橋 よくモックを見てもらっていました。Prottはチーム内で共有するために使っていたので、チームメンバー以外に見せることは滅多になかったですね。それに、藤田はデザインだけじゃなくて機能やサーバーのロジック的なところも確認したい人ですから。

土屋 すごい。さすが藤田さんだなあ。結構細かいところまで指示を出されるんですか?

室橋 いえ、スケジュールからプロダクトまでしっかりコミットしつつ、基本的に現場に任せてくれました。どうしても譲れないところだけ言ってくる感じですかね。

土屋 先ほど「Hard Edged」という言葉がありましたが、それはチーム全体で決めたスローガンなんですか?

室橋 そうです。半期ごとに言葉を決めていて、リリース前は「Deep Impact」、つまり「インパクトを与えよう」でした。このテーマがあったから、僕も大胆にデザインできましたね。

土屋 たしかにあまり見慣れない、斬新なデザインですよね。

室橋 そうなんです、海外アプリみたいな「今までなかった!」というインパクトを与えたくて。ただし、使いにくくなってしまっては本末転倒ですから、感覚的に操作できること、直感的であることは徹底的に突き詰めました。突飛な動きもあまり使っていなくて、よくあるトランジションやパララックスばかりなんです。あくまで、インターフェースだけが「誰もが見たことのないもの」で。

土屋 たしかに、使っていて詰まるところもストレスもないですよね。斬新なインターフェースと使いやすさが共存することが「インパクト」になっているんだろうなあ。

室橋 ありがとうございます! リリースしたあとも、おかしな家のリフォームみたいにちぐはぐにならないよう、妥協せずにこだわろうと決めていました。Prott上でズレていたら、「実装で直せばいいか」ではなく、Prott上でもちゃんと直そう、と。

土屋 すごい徹底したこだわりですね。テーマを立てることでよりやるべきことが明確になったからこそなんだろうな。よし、速攻パクらせてもらおう(笑)。

室橋 どうぞどうぞ(笑)。テーマを掲げることって、サイバーエージェントの文化なんですよね。個人の目標も立てるわけですが、「言い切った手前、やらなきゃ!」と自分にハッパをかけられるのでいいですよ。社内でも発表されますし。なにより自分の目線が上がると思います。

土屋 お、それはすごいなあ。室橋さん個人の目標は何だったんですか?

室橋 「人に薦めたくなるデザインをつくる」でした。

土屋 じゃあ、見事達成したわけですね!

最後に

土屋 今後の展望をお願いします。

室橋 ありがとうございます(笑)。一応、現状で決まっているのは、オフラインで再生できる機能と端末に入っている音楽を再生できる機能をつける、ということは確実ですね。あと、シェア機能もまだ完全ではないので、充実させていく予定です。さらに、PC、タブレットの対応、Apple Watchなどのウェアラブル端末にも展開していけたらな、と。

土屋 おお、盛りだくさんですねえ。

室橋 もちろん、適当に仕上げてどんどんスピードを上げるのではなく、きっちり、しっかり、突き詰めて考えていきます。ひとつずつ最上のプロダクトを出していきたいですね。

土屋 楽しみです。その際は、ぜひProttを活用してくださいね。くれぐれも、上の方によろしくお願いします(笑)。

室橋 アピール隊長としてがんばります(笑)。 

土屋 ありがとうございました!